2025年8月2日土曜日

1169 献杯


女房一族のドンが亡くなった時、献杯の音頭は、ひかるしかいないと、音頭を取らされる信頼、急変ぶりである。

勿論、ひかるは必死に働きマイホームを構えていたが、女房の親が年を取り、足元もおぼつなかったので、親の面倒は子供が見るべし、と嫌がる女房を説得し、同居に踏み切っていたのである。

塩を撒いたはずの男が、今や心から信頼出来る婿として同居する。

安心した親は、都心の一等地と建物を遺言で女房に譲って、あの世へ旅立って行ったのである。

ひかるは常々女房に言っていた。

お金は、生きる為の道具、幸せに成る為の小道具に過ぎない。

金の亡者となり、金の奴隷と化すべきではない。

貧しくても、心豊かに、優雅に生きられる方法がある、と言って、つつましく生きて来たのである。

女房も財産が転がり込んだからとて、ブランド品を買いあさる訳ではなし、孫たちの成長をいつくしみ、楽しんでいる。

孫はかわいい、ジジ、ババとマクドナルドへ行くのが、一番の楽しみのようで、ハンバーグをほおばる横顔を見ていると、毎日が楽しい。

一緒に風呂に入り、ジジ、ババの買ってくれたパジャマだ、と言ってウルトラマンのパジャマを着、ウルトラマンのパンツを着て、フトンへ潜り込んでくる。

スヤスヤ寝息を立てる横顔を見ると、幸せの極地である。

片や学は、昼間は掃除、炊事洗濯など、お手伝いにやってもらえるかも知れないが、夜は一人でチクチク痛む肝臓をさすり、不安な日々。

寝ても覚めても頭の中は、札束が飛び交っている。

布団に入って、横に寝るのは猫だ。

夢枕には、金の延べ棒で出来た階段を、一歩一歩上がっているだろう。

一歩一歩、あの世へ近ずいているんだぞ!!

これから先、この男の頭は正常化するのだろうか。

少子化の影響なのか、親の遺産を当てに、フリーターを誇らしげに自慢する人に出会う。

冒頭に出会った、文京区の青年は、最たるもので、ひかるから見ると、己の人生を無駄にする、許せない輩で、怒り心頭だ。

おい! めん玉ひんむいて、よく見ろ!

土手の川風を涼やかに受け、夫婦が孫二人と手をとり、心豊かに優雅に散策している。

対岸には、男がリュックサックに札束を詰め、周りをキョロキョロ警戒しながら歩いている。

後からは、悪しからぬ輩がなんとかリュックサックの中身を、少しでも掠め取りたいと見え隠れして狙っている。

しかし男は屈強な恐ろしい犬、三匹に引っ張られ、一生懸命犬の糞を処理している。

貴方は、この二つの姿を見、どの道を選ぶのか、本気で考えて見ろ!

貴方の鼓動、今の一鼓は、もう後戻りしない。

のんびりしている場合ではない。

貴方は今、一刻一刻、白髪、シワ、禿げの世界へ、一歩一歩近づいているんだぞ!

もう一度、めん玉ひんむいて、土手を見ろ!

そして、胸に手を当て、己の鼓動と、冷静に会話しろ!

まさかお前の両親は、お前を犬の糞拾いにこの世へ誕生させた訳ではあるまい。

 人生の 喜怒哀楽に ロマンあり

 若者よ 思い残すな 明日は華

 貴方には 誰にも盗られない 知恵がある

 貴方には 誰にも止められない 鼓動がある

 これしかない!

 己の人生ドラ マロマンを持て!

 そして

 命を張れ!

 命を張れ!

0 件のコメント:

コメントを投稿

 1175 豊年際

  黒島には、かなり古くから伝わる、豊年際の、ハーリー競争がある。 ハーリー競争は、中国や沖縄本島、石垣島や周りでも行われているが、この黒島の場合、かなり違った行事である。 船を漕ぐ競争だけでなく、ウーニーと呼ばれる、走り手、その競争が、かなりメインの役割をする。 写真は、ウーニ...