2026年4月27日月曜日

1185 悲恋

 育造爺ジイーは、大阪の漬物工場で、長い間働いていたが、ふらりと一人で、生まれ島へ戻って来た。

結婚はしたことがあるのか、子供は居なかったのか、誰にも過去の話はしない、と言う。

機嫌良さそうな顔で、どうやって手に入れたのか、泡盛の二合ビンを1本持って、ひかる、今日はオレのおごりだ!、といって、ふらりと入ってきた。

楽しいことがあったのか、いつもより、水の量が少なく、ほとんどストレートで、1本飲んでしまった。

「育造爺ジイー、この歳で一人は惨めだよ、女はいなかったのか、どこぞで子供は居ないのか」と聞くと、小さな目で睨み付けた後、どういうわけかポツリと、過去の話をした。

漬物工場の近くにある、町内の縫製工場に努める、可愛い子で、名前は良枝という。

良枝は母思いで、いつもセーターやマフラーを編んで、秋田の母に送っていたという。

二人は、一緒になる約束をしていたそうだ。

そのうち良枝の母の具合が悪いということで、秋田へ帰ったとのこと。

育造爺ジイーは、世帯を持つため、一生懸命働きに働いたが、そのうち島の自分の母が具合が悪いということで、呼び戻されたそうだ。

昔のことだ。今みたいに、飛行機が使えるわけでもない。一度果ての島へ帰ったら、2度と本土へ行くということは、大変なことだ。

世帯を持つと約束した二人の関係はあまりにも遠く離れ、以後ぷっつり途絶えたと言う。

育造爺ジイーは、下手ながら、夜な夜な三味線をつまびく。

そして歌うのは、かごの鳥である。

良枝とのことは、誰にも話したことがない。初めて打ち明けたのだろう。

話の途中から、もうおいおい泣き出して、涙が止まらない。

80歳になった今でも良枝のことが忘れられず、夜な夜な、かごの鳥を歌う。

会いに 来たのに?なぜ出て会わぬ・・

僕の?呼ぶ声?聞こえぬか・・

今宵また、南の小さな島の空に、かごの鳥が響く。

声の限り、途切れ途切れに叫ぶ、がごの鳥の歌は、物悲しー

そしてまた明日は港へ行き、若い娘を見つけては「どこから来たねー」、と探し求める。

もう良枝は、こんな若さではないだろうに、育造爺ジイーには、色が白くて、髪の毛を束ねていた、若い時の良枝の面影で、いっぱいだ。

そして、良枝が編んでくれたという、セーターを、今でも大事に、大事にしている。

育造爺ジイーは、もう長くはないだろう。せめてひと目、秋田にいるという、良枝にあわせてやりたい。

良枝、一度でいいから、いや生きているなら、声だけでもいい。

命の限り、あなたを待ち続ける、育造爺ジイーは、かわいそうだ。

育造爺ジイーの声が聞こえるか。

会いたさ、見たさーに、怖さを忘れ・・

会いに 来たの?に なぜ出て会わぬ・・

僕の?呼ぶ声 聞こえーぬか・・

搾り出すかすれ声は潮騒に沁みていく・・・


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