島に昼間は軽食、夜は飲み屋になる小さな店がある。 ヘルパーとして23歳の娘と27歳の真美ちゃんが、昼夜交代で働いている。 真美ちゃんは、ひかるの娘と同じ名前なので、何時も呼び捨てにしかわいがっている。 真美も、ひかるの事を父親の如く親しくしてくれている。 夕方7時頃、店に行くと島の牧場をやっている青年達が、5人ほど集まっていた。 隅っこの二人掛けのテーブルに座ると、青年達が手招きをするので同席すると、何とテーブルには寿司と焼き鳥、串焼きが所狭しと豪勢に並べられている。 この島にはない料理で、石垣島より取り寄せたばかりだという。 何か祝い事でもあるのかと聞くと、真美ちゃんの27歳の誕生祝だとの事。 しばらくして、真美を席に座らせると、電気が切られ真っ暗闇。 入り口から、若者がタンタータタン、タンタータタンと、出来立てのケーキだといって入ってきた。 ろうそくがともされ、バースデーの歌が流れ、真美ちゃんが蝋燭の火を消すとあかりが点けられ、拍手喝采。 そしてケーキカットの合図に、大きなスプーンが真美に渡された。 何と気がつかなかったが、目の前にあるのは、ケーキではなく、実は豆腐だったのである。 島に、ケーキがないので出来立ての豆腐が、ケーキに早変わり。 よく見ると、豆腐の横には、波形のポテトチップスが刺さって、デコレーションされている。 立派なケーキに見えるのである。 そして真美ちゃんは、ポテトチップスにスプーンで豆腐を乗せ、まず口へ運び、ありがとうと、みんなにお礼をし、そして次から次と、ポテトチップスに、豆腐を乗せ、みんなに配った。 初めてではあったが、びっくりするような珍、新味だ。 醤油は使わず、ポテトチップスの塩気と、その上に乗った豆腐をほおばる。 これ程の珍味があるのかと思われる、見事なケーキ。 島の若者達のアイディア、感性には驚かされた。 真美ちゃんがこの島へ流れ着いたのは、一年前であった。 スタイル、プロポーションは抜群で、目鼻だちもはっきりしており、ファッションモデルとしても通用する、均整のとれた容姿である。 しかし来た当時、どうみても暗いイメージで、いわくありげというか、幽霊が背中にハビリついているのではないか、今にも岩から飛び降り自殺をしそうな暗さを持っていた。 それが一年経った今は、これ程変身出来るかと思われるくらいの明るさが戻ってきた。 誕生パーティーでも、同年代の島の独身男性が言い寄って来ても「私はあんたとなんか絶対結婚しないから、あっちへ行け」と脳天からの高笑い、明るく、軽く、相手に不快感を与えずに、あしらう。 誰もがびっくりするような変身ぶりである。
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