いつものように、海辺の休憩所の横で、一服しながら真っ赤な夕陽を眺めていた。
潮時は満潮で、砂浜にも珍しく観光客の姿はなかった。
すると二十代後半と思われる女性が、自転車で来るなり、私の存在も気づかずそのまま砂浜へ降りて行った。
波打ち際で止まるかと思ったのだが、その子はそのまま海の中へ、ズブズブとまっしぐらに歩き出した。
途中で止まるかと思うと、その子はさらに深い所へ、止まることを知らない。
ありゃありゃ、入水自殺か?
私の前を通り過ぎる時の思いつめたような横顔からして、ただごとではないな。
取り急ぎ、島の消防団を呼ぶ必要があるな、と腰を浮かせ携帯電話を取り出すと、その子は胸元まである深さへ行くと、ピタリと止まった。
そして両手を口もとへ持っていき、腹の底から、あらん限りの声で、夕陽へ向かって叫び出したのである。
OOの馬鹿野郎!
OOなんか死んじまえ!
OO! あんたなんか動物以下だ!
失恋した男の名前だろうか、悔しさを夕陽にぶつけている。
そうしていると気づかなかったが、砂浜の岩陰にでも居たのだろうか、今度は左側からもう一人、女の子がズブズブと海へ入って行き、同じ態勢で叫び出したのである。
XXの馬鹿野郎!
XX! 今に見ていろ!
若い女性が、真っ赤に沈む夕陽を真ん中に、ステレオで叫ぶ様は、心を打たれ、物悲しい。
涙を洗い流しているのだろうか。
両手で、ざぶざぶ顔を洗った後、女性は砂浜を上がって来た。
私の存在に気づくと、ばつ悪そうな、気恥ずかしい顔をした。
「塩水のまま民宿へ帰るとまずいので、そこのシャワー浴びたほうがいいぞ」と言うと、真っ直ぐシャワーの方へ行った。
シャワーの場所を聞き返さないところをみると、この島は初めてではなさそうだ。
もう一人の子も私の声が聞こえたのか、前の子の後を追ってシャワーへ行った。
自分達の、見せては恥ずかしいシーンを見られてしまった、しかし相手は、どう見ても島の人らしい。
シャワーの間に安堵感があったのか、二人はシャワー後、真っ直ぐ帰るかと思うと、私の前の腰掛け代わりの流木に腰をおろし、一緒に夕陽を眺めた。
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