2026年9月27日日曜日

184 トラブル

 

言われたとおり水をかけると、確かに寒いのか、鳴き止む。しかし30分もするとまた鳴き始める。

30分おきに水をかけ続けたが、人間の体が持たない。

「オスのヤギのいるところ知っているので連れてこようか」というと、奥さんは即座にブルルン、ブルルンと首を横に振る。

これ以上ヤギが増えたらどうなる、よほど懲りたと見える。

「仕方ないさー、殺すしかないさー。」

この期に及んでは、高山夫婦も従うしかない。

しかし、ヤギを殺せる人はそういない。

3人ほど名前を挙げてもらい、頼みに行くと勘弁してくれとのことだという。

そこでまた最後、育蔵じいさんに頼むと、光男のところへ行けと言ったとのこと。

確かに子供の頃、ヤギは食用に飼育していたので殺し、解体した経験はあるがいまさら殺傷は嫌だ。

あまりの困惑顔に、光男の方で3名のうちの一人に泡盛をしたたか飲ませ、人助けだからと頼むと、なんとか殺すことに同意した。

ヤギの鳴き声が止まった時、うわさが出る。

誰が殺したのか? 

たぶん殺し屋ナンバーワンはあいつだろう。

田舎暮らし、意外と見落としがちなのは、ペットによるトラブルだ。

去勢する動物病院が、田舎や島にはない場合が多い。

犬を飼っている家があるが、やはりオスやメスだけでは、問題が出る。

発情期はかなり凶暴で、Aさんが噛まれ、Bさんも危うく難を逃れるといった話を聞く。

観光客には子供連れもいる。

子供がペット噛まれ通院、旅行の中断、台無しになり、賠償問題になることを考えるとゾッとする。

また去勢しているからといって、周りには去勢していない野良動物がおりトラブルもある。

ヤギの騒動は氷山の一角に過ぎない。

田舎暮らしを計画している人がいたら、厳重な注意が必要だ。

殺し屋はそう簡単には見つからないぞ!


183 悲痛な声

 

前にも増して泣き方が、懇願するようなもの悲しさ、悲痛な声で泣いている。

再度育蔵じいさんのところへ行くと、満面の笑顔で泡盛を舌なめずりして飲んでいる。

育蔵じいさんが泡盛を飲むとケツに根が生え、びくとも動かず、鳴き声などまったく耳に入らない。

頼んでも、頭の中は泡盛のことだけでまったく話にならない。

そして言い放った。

再度鳴きだしたらまた指を突っ込め。これを繰り返していると大丈夫だよ。

一晩くらいは、ヤギと添い寝しな。

ヤギの糞の中で寝るのか、バカバカしいと高山夫妻は腹に据えかね帰った。

今度は、光男のところへ相談にきた。

あまりにも島暮らしのルールを知らない。

バカバカしい相談なので、この問題を解決できれば、間違いなくノーベル賞はもらえる、夫婦で本気になって考えな。

ヤギの糞がいやなら、自分のベッドへお招きしろ、と言ってやった。

夫婦は周りに、島人は自分たちの悩みを本気で相談に乗ってくれない。

自分たちは移住者として、よそ者扱いされている、と愚痴をこぼしたそうだ。

あんたら馬鹿か。

そんな下らないことで島の人たちと諍いを起こすようでは、この先が思いやられる。

横浜へ帰って、週刊誌ネタで井戸端会議をしていろ。

帰ったほうがましだぞ、と言ってやりたくなった。

高山夫妻のところの2匹目のヤギがとうとう発情してしまった。

メスヤギの鳴き声は、ますますひどく、1週間おきに2日間、昼夜を問わず鳴きつづけるという。

それに今度は、子ヤギが鳴き始めたのである。

高山夫人は、とうとう完全なるノイローゼ状態だ。

今度こそはと、わらにもすがる思いで、育蔵じいさんのところへ相談に行くと、「水をかければいいさー」という。

182 郵便配達

 

見晴らしのいい観光休憩所でのんびりしていると、赤い郵便局のバイクが来て、顔なじみの配達員が「兄さん、東京から手紙だよ」と配達してくれた。

東京なら郵便受けへポンで終わりだが、島らしい。

なぜ私がここに居ることが分かったのかと聞くと、民宿で聞いたとのこと。

そうだ、民宿の親父は立ち寄らなくても、厨房で仕事中でも、バイクの音を聞き分けることが出来る。

10分前に、こっちの方へ行ったから、と教えてくれたそうだ。

他にもバイクは走っているが音が違うし、時間帯により誰が通ったか見なくても分かる、のどかな島だ。

最近、石垣島より若い娘達が日帰りでワンサカと訪れる。

港でレンタサイクルを借り、島内一周して必ず立ち寄るのが、赤いポストの郵便局だ。

そう、この南のハート島のポストに想いを投函すると成就すると言われ、押し寄せるのである。

ワーリトーリ(歓迎)黒島へ。

島に、横浜から移住してきた、50代の高山夫婦がいる。

のどかな島だが、移住者にとっては困りごともある。

子供はなく、二人きりの生活で、大きな番犬を飼っている。

それにペットとして、メスのヤギを2匹、飼いだした。

大きい方のヤギが、ここのところやたらめったら鳴く、それも一昼夜メーメー鳴き続けるのである。

鳴き止むかと思うと、2週間もするとまた夜通し鳴き続ける。

夜中2時3時であれ関係なく、不眠不休で鳴き続けるのだ。

島の人に聞くと、それは発情だろうとのことだ。

さて困ったことに、オスのヤギがいない。

とうとう3回目も鳴き出し、隣近所に対しても迷惑だし夜も眠れない。

そのうち2匹目も鳴き出したら、やっとの思いで移住したのに、島にはいられない。

高山夫婦は困り果ててしまった。

育蔵じいなら、島のことは知っているし、頼んでみようということになった。

じいは、しばらく人から頼まれ事もないので、即座に引き受けた。

ヤギ小屋へ行くと、荒々しくメスヤギを横倒し、な、ななんと、指をメスヤギの秘部へ突っ込む、じいさんなりの荒っぽいおまじない。

メスヤギはいきなり抑え込まれ、目をパチパチ、じいさん何すんのよ、と言っているのか唇ムニャムニャ、あまりにも速い動作に、あっけにとられた顔だ。

すると、どういう訳か鳴き止んでしまったのである。

高山夫婦は大いに感謝、感激。

大事に取ってあった泡盛の古酒と、夜のおかず用に用意してあった刺身を育蔵じいさんに渡した。

育蔵じいさんは得意満面、「何かあったらいつでも相談に乗るさー」と意気揚々と帰っていった。

ところがところがだ。

2時間もすると、またメーメー鳴き出し、結局ダメだった。


181 半ボケ

 

皆さんハートアイランドご存知ですか。

沖縄本島から南へ400キロ、周囲12キロという、ものの見事にハート型をした小さな黒島で、ハートアイランドと呼ばれている。

この島に年齢は80歳を超えた、いまだに独身の一人の正彦じいさんという人がいる。

頭は完璧にツルツル、ツルハゲだがその分顎ヒゲはもじゃもじゃ。

目は人一倍小さい。遠くから見ると、どう見ても顔が上下逆さまだ。

いつも短パンにランニング姿で、腹がポッコリと出ている。

年のせいか、半分ボケが入っている。

足腰は意外と丈夫でいつも自転車を乗り回し、昼間から島中をパトロールしている。

見晴らしのいい、休憩所などで観光客がいると誰かれ構わず、「どこから来たね~」と声をかけて回る。

正彦じいさんは若い頃、20年ほど大阪で仕事をし自分の生まれ育ったこの島へ、ふらりと単身戻ってきた。

観光客が名古屋から来たというと、私は20年間名古屋に住んでいたと言い、適当に話を合わせる。

別な観光客が、仙台から来たといえば自分は20年間、仙台に住んでいたことがある、といい加減だ。

毎日が彼なりの世界旅行である。

顎ヒゲは見事、そして笑顔が子供のように愛らしく、いつもニコニコしている。

観光客は、半分ボケているとは誰も思わない。

最近島に、外国人の観光客が増えてきたが、正彦じいさんは果敢に挑戦する。

「どこから来たね~」と聞き「スイスから来た」というと、私は20年間スイスで生活していたと始まる。

「エッフェル塔の眺めは素晴らしい。上ったことあるかい。

ジュラシック・パークという公園では、昼間からよくも若者がチュウチュウ、キスをして恥ずかしくないのかね」

話は全く通じない。

また別の外国人を見つけ「どこから来たね~」と始まる。

イギリスから来たというと、私は20年間イギリスに住んでいたことがあると始まる。

「自由の女神、見たか、あれはいい」と得意になって話をする。話は全く通じない。

とうとう正彦じいさんは外国人と話をすることを止めた。

その点を聞くと「あいつら、バカだよ」

こんな小さな島へ流れ着くような外国人は、学校なんぞ出ていない。自分の国のことすら知らない。

正彦じいさんは、芯から怒り出す。

今日も正彦じいさんは自転車で徘徊を始める。

180 画像

 


ハート島。

179 流れ星への願い


パーティーから数日後、港で会ったので声をかけた。

先日、群馬からお父さんが来たんだってと聞くと。

ええ! 誰から聞いたの、私お父さんが島に来たこと誰にも言ってないのに、とびっくりしていた。

「おじさん地獄耳だから何でも知ってるよ」と言うと観念したのか、皆さん島の良い人に出会えたこと一生忘れないよと、笑顔で答えていた。

「真美ちゃんのお父さん、本当に心配で仕事を休んで、高い飛行機代出して様子を見に来たんだぞ、もっとお父さんに甘えた方がいいよ」というとうなずいた。

「2週間後に島を離れるけど、島のこと一生忘れないから」と明るい笑顔だった。

「群馬へ帰ったらお見合いをし、いい人見つけな」というとコックリうなずき、「私必ずいい人見つけてもう一度島へ来るから」と自信に溢れた少女の笑顔が返っていた。

この島は見事なハートの形をしている。

何故かこの島に滞在すると、心が落ち着き癒されるという。

真っ赤に燃えた真美のハート、きっといい人が見つかるだろう。

南の島の夜、雲一つない晴天、まれに見る星空の美しい夜の出来事。

民宿の庭で、観光客14、5人と輪になって酒を飲んでいると、年の頃30歳を越したばかりと思われる女性の二人連れがいた。

綺麗な星空を海岸で見て来る、と二人は出かけた。

しばらくして、綺麗な星空が見られてよかったと帰ってきた。

「流れ星見られた?」と聞くと、「すごい大きな流れ星が何個も見えた」とのことだ。

年頃の女性なので、さぞかし流れ星にロマンチックな想いを寄せたのでは、と尋ねると「勿論、お願い事したわよ」

何をお願いしたのと聞くと、勿論お金よ、と即座に言ってのけ、隣の子もうなずいていた。

「おじさん知らないの、流れ星に、金、金、金、金と4回連発出来ると、金持ちになれるのよ」

今の若者の考え方には、夢もロマンもへったくれもないのか。

しばらく飲んでいたが、また今度は、別の方向で星を見に行くという。

姉御役と思われる一人が、どうも自信がないのか。

こんどこそ間違いなく、金、金を4連発してやると立ち上がって行った。

「こら、この若さでまだまだ人生を開き直ることはないだろ」と言ったがどうも耳に入らないようだ。

スレた様子からみて、この二人の女性は再度星を見に行くと言って、周りの男の子が一緒について来るのではないかと、誘いかけをしているように見えたが、男は誰一人としてついて行かなかった。

男どもよ、間違ってもこのような女性に捕まるな。

まかり間違って捕まると、なんで私が貧乏な人生を続けなければならないんだ、と言い続けられる。

結婚しない女性が増えているというが、原因の根本は結婚に対する金の比重が、以前とは格段に違うようだ。

このような世代に生まれなくて幸せだった。


178 珍味。

 

島に昼間は軽食、夜は飲み屋になる小さな店がある。

ヘルパーとして23歳の娘と27歳の真美ちゃんが、昼夜交代で働いている。

真美ちゃんは、光男の娘と同じ名前なので、いつも呼び捨てにし、かわいがっている。

真美ちゃんも、光男のことを父親の如く親しくしてくれている。

夕方7時頃、店に行くと島の牧場をやっている青年達が、5人ほど集まっていた。

隅っこの二人掛けのテーブルに座ると、青年達が手招きをするので同席すると、何とテーブルには寿司と焼き鳥、串焼きが所狭しと豪勢に並べられている。

この島にはない料理で、石垣島より取り寄せたばかりだという。

何か祝い事でもあるのかと聞くと、真美ちゃんの27歳の誕生祝いだとのこと。

しばらくして、真美ちゃんを席に座らせると、電気が切られ真っ暗闇。

入り口から、若者がタンタータタン、タンタータタンと、できたてのケーキだといって入ってきた。

ろうそくが灯され、バースデーソングが流れ、真美ちゃんがろうそくの火を消すと明かりが点けられ、拍手喝采。

そしてケーキカットの合図に、大きなスプーンが真美ちゃんに渡された。

何と気が付かなかったが、目の前にあるのは、ケーキではなく、実は豆腐だったのである。

島にケーキがないので、できたての豆腐がケーキに早変わり。

よく見ると、豆腐の横には、波形のポテトチップスが刺さって、デコレーションされている。

立派なケーキに見えるのである。

そして真美ちゃんは、ポテトチップスにスプーンで豆腐を乗せ、まず口へ運び、ありがとうと、みんなにお礼をし、そして次から次へと、ポテトチップスに、豆腐を乗せ、みんなに配った。

初めてではあったが、びっくりするような珍味、新味だ。

醤油は使わず、ポテトチップスの塩気と、その上に乗った豆腐をほおばる。

これほどの珍味があるのかと思われる、見事なケーキ。

島の若者達のアイデア、感性には驚かされた。

真美ちゃんがこの島へ流れ着いたのは一年前であった。

スタイル、プロポーションは抜群で、目鼻立ちもはっきりしており、ファッションモデルとしても通用する、均整のとれた容姿である。

しかし来た当時、どうみても暗いイメージで、いわくありげというか、幽霊が背中にこびりついているのではないか、今にも岩から飛び降り自殺をしそうな暗さを持っていた。

一年後、あの暗かった彼女からは想像もできない、これほど変身できるかと思われるくらいの明るさが戻ってきた。

誕生パーティーでも、同年代の島の独身男性が言い寄って来ても「私はあんたとなんか絶対結婚しないから、あっちへ行け」と脳天からの高笑い。

明るく、軽く、相手に不快感を与えずにあしらう。

誰もがびっくりするような変身ぶりである。


192 瓶拾い

  結婚をさせ、子供でもできれば、元の明るい子に戻るだろうと、石垣島の知人に相手を紹介して欲しいと依頼した。 五歳年上の健一という男とお見合いをしたが、抜け殻のようになった明子は、親の言うまま結婚。 健一の仕事は、船の荷役という日雇い労働者だ。 当時は重機がなく、男どもが蟻の如く...