明子は中学生の頃、テニスに打ち込み地区代表として県大会まで出る程の腕前。
それがまた親父の誇りで、みんなの人気者だった。
明るくて元気な明子、昭二もほのかに思いを寄せていた。
誰にも触れさせたくない存在、とうとう夜這いに及んでいたのである。
先輩が伝授した通り、身をかがめ、こっそり家の裏へまわる。
そして物音一つしないよう、明子の寝ている裏座の戸を、やっと入れるくらいの隙間を開ける。
島の家の造りは、一番座、二番座があり、必ずと言っていいほどその裏に裏座がある。
そしてその裏座はまた、必ずと言っていいくらい外へ出入り出来る構造になっている。
初めての夜這いで、昭二の胸は高鳴り、破裂しそうである。
しばらく目を暗闇に慣らすため、じっとうずくまっていると、なんと明子は大胆なポーズで寝ている。
その姿を見た瞬間、昭二の頭は真っ赤っか。全ての思考力はすっ飛んでいた。
昭二は夕方森で出会い、今夜自分が夜這いに来ることを予測し、待っていてくれたのではないか、昭二にはそう思えるポーズ。
ぶるぶる身震いしながら少しずつ近づいていった。
その時、襖が五センチほどそっと開いたのであるが、人生最高潮、絶好調に興奮しまくっている昭二は、まったく気がつくはずがない。
ふっくらと盛り上がった明子の乳房へ手がかかる瞬間。
予告なし、稲妻なしの突然の落雷!
「こらあー!」と親父の怒鳴り声、天井がスピーカーのコーンとなり爆音が部屋中に響き渡ったのだ。
昭二はそれこそ、失神しかねない驚きだが、抜けた腰でも、とにかく逃げた。
隙間にしこたまぶつけたが、抜け出し、東から回って逃げようとすると、親父が先回りし、泥棒、泥棒と言って通せんぼ。
身を翻し西側から逃げようとすると、今度は母親が、棒を振りかざし、泥棒、泥棒と叫び、挟み撃ちになってしまった。
しからば、石垣をよじ登って逃げようと飛びついたが、酔いがまわっていたのか、すんでのところ石垣の上で親父にズボンの裾を捕まえられてしまった。
ヤモリなら尻尾を切って逃げるが、へばりついたまま、母親は棍棒振りかざし、恐ろしい形相で、ことあらばと一撃態勢、身動き出来ない状態。
後手にねじ上げられ、家の中に引きずり込まれた。
そして両手を後手に、柱に縛りつけられてしまったのだ。
普通なら説教をし、謝れば解き放つのだが、かわいい一人娘を狙ったにっくき男、親父は気がすまない。
夜が明けると、村中の人に「大泥棒を捕まえたから、顔を見てやってくれ」と振れ回ったのだ。
隣村からも見物に来、秀雄や久雄などまでがドジしやがったなとニタニタ見物、これ程の屈辱は無い、という晒し者。
親が謝り解き放たれたが、昭二は外にも出ずこもりきりだ。
自殺しかねない、見るに見かねて、次男の昭二は島からこっそり逃げるように出た。
着の身着のまま、見送る人もない。
以後の行方は親兄弟、誰一人として知る者はいない。
以後、あれ程明るかった明子は、ふさぎ込んでしまった。
0 件のコメント:
コメントを投稿