2026年9月29日火曜日

193 他所者

そんなある時、島に一人の男が立ち寄った。 

手ぶらながら、ネクタイに背広姿。島の人々の姿とは違うので、明らかによそ者、旅人である。

他の客が船から降り終わった後、一人降りて来たが、人が群がっている所は避け、懐かしそうに探索している。

帽子をかぶりサングラスをかけ、口ひげを生やしているが、そうだ、その男こそが四十年前、夜這い事件を起こした、昭二なのだ。

普通の人は、集落を結ぶ大きな通りを歩くのだが、昭二は防風林沿いの小さな獣道を、懐かしそうに周りを見ながら歩いていった。

自分の生まれ育った集落にさしかかったが、集落へ入ろうとはせず、そのまま通り過ぎた。

五百メートルくらい行くと、そこは明子と出会った小さな森だ。

昔とほとんど変わっていない、自分が草刈りをしていた場所と、明子が薪拾いをしていた所は、三十メートルくらいしか離れていなかったのだ。

ふくよかな明子の姿が脳裏をよぎる。

なぜあの時、明子に声をかけられなかったのだろうか。今更ながら情けない。

しばらくして、昭二は更に先へと進んだ。

そこには、明子の家がある。

明子はいつものように庭で野菜作り。 

トマトの新芽の間引き後、菜っ葉を植えようと耕していると、人の気配がしたので何気なく振り返ると、そこには石垣から首だけをチョコンと出したサングラスの男。

石垣越しに視線が合った。

明子は見た瞬間、それが昭二だと分かった。

まさかと一瞬目を疑ったが、まぎれもない。

長い間、待ち続けた昭二。

まさか まさか、と胸は張り裂けんばかりに取り乱し、逃げたくなった。

昭二は門口まで来ると、明子を見据えたまま「入ってもよろしいでしょうか」という合図の会釈をした。

あまりの突然の出来事に、明子は混乱していたが、大人がやっと二人腰掛けられる、小さな縁台へ促した。

明子はどう対応していいのか、もじもじ戸惑っている。

女として、こんなみすぼらしい姿だけは見せたくなかった。

化粧っ気一つなし、ボロボロの落ちぶれた姿だ

恥ずかしい。恥ずかしい。 

今すぐにでも逃げ出したい。

しかし、逢いたい、嬉しい、恥ずかしい、諸々が脳裏でチャンプルーしている。

その内、かすかに笑みが漏れたところは、やはり逢いたかった。

嬉しい気持ちの方が恥ずかしい気持ちを、寄り切ったようだ。


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