夜這いがあったあの日、昭二を受け入れ、ささやかな世帯を持ちたいと思っていた。
昭二が後手に、柱に縛られ泣いている時、なんで父親に自分の気持ちを打ち明けられなかったのだろうか。
何度も、何度も後悔をしてきた。
昨夜もトタンに囲まれた風呂場、ドラム缶の風呂に夜空を眺め、昭二に思いを馳せていたのである。
そんな昭二が、突然目の前に現れ、動揺するのは当然だ。
昭二はまた、あばら屋を見た時、もう両親はなく一人身だろうと思った。
先ほど来、自分を毛嫌いすることなく受け入れてくれている。
もしかして独身で、ずっと自分を待ち続け今日まで来たのではないか。
そう思うと、土下座をし地べたへガツンガツンガツンと頭が割れるほど叩きつけ、謝りたい気持ちで明子以上に動転していた。
沈黙が続いた後、無意識のうちに初めての言葉が出た。
「結婚はしなかったのか?」
明子は、もう開き直っている。
今までの身の上話をポツリポツリ、とかいつまんで話した。
昭二は聞き終わると、大きなため息を漏らした。
明子もまた、昭二にだけは一度話したかった、聞いて欲しい事をしゃべったので肩の荷が下り、ため息をついた。
明らかに朽ち果てたボロボロのトタン屋根、風呂やトイレは青天井、冬場は寒いだろうに。
電気や水道はあるのだろうか。
着ているものはボロボロ。食べ物は。
自分のしでかしたことが、明子の体や人生全てボロボロに破滅させてしまった。
謝って済むようなことではない。
明子の顔を見ていられなくなり視線を外すとハッと我に返った。
もし昭二が明子に会っている姿を見られると村中、島中の人が出ていけ、二度と島に来るな、と罵られるだろう。
後ろ手に再度縛り上げられ、さらし者扱い。
更に明子の身の上に災いがくる。
急ぎでなければならない。
幸いにも明子の家は村の東はずれにあり、誰にも気付かれなかった。
周りを気にする様子で気付いた明子は、何気なく「ご結婚は?」と聞いた。
「初めての孫が生まれたばかりだ」と。
明子は動揺もせず、もちろんそれは当然の姿である。
昭二は自分の来島を実家などにきつく口止めし、背を向けた。
行かないで、と縋る明子の眼に涙。
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