2026年10月16日金曜日

215 アイロン娘

 

南国の小さな島の人達は普段、作業着姿で取り立ててオシャレなど無縁だ。

20歳になったばかりの千恵子は、育ちの良いおしゃれな女の子だ。

洋服はいつもピシャリとアイロンがけをし、周りからも羨ましがられる存在だ。

いつの間にか千恵子は、アイロン娘と呼ばれるようになった。

隣村に同い年の容姿端麗、千恵子に勝るとも劣らない一人娘の町子がいた。

どういう訳か町子の前を通ると、時々奇声を発するという。

なんで奇妙な声を出すのかと聞くと、町子はゴキブリが大嫌いで、ゴキブリを見るとほうき片手に格闘するという。

案の定、町子はゴキブリ娘と呼ばれるようになってしまった。

この島では本名よりあだ名の方が幅を利かせる。

アイロン娘、そしてゴキブリ娘と二人は呼ばれるようになってしまう。

このあだ名が命運の分かれ道だったのだろうか。

アイロン娘は早々と結婚するが、ゴキブリ娘は嫁の貰い手がなく、とうとう行かず後家になってしまった。

アイロン娘は、年頃になると美容師の勉強をするために東京へ出る。

そして結婚をするが、何と嫁いだ先がクリーニング店だったそうだ。

アイロンがけは評判もよく、クリーニング店は大繁盛。

いつの間にか全国にチェーン店を持つ、大きなクリーニング店になったそうだ。

アイロン娘は可愛い女の子を授かるが、血筋なのかその子もまたアイロンが好きでいつもアイロンがけされた洋服を着ていたそうだ。

ばあちゃんとなってしまったアイロン娘は、いつも孫に我が家の家宝はアイロンだぞと話しているそうだ。

片やゴキブリ娘はとうとう両親も他界し、今でも一人で相も変わらず奇声を発しているとのこと。

そしてその家は名実ともにゴキブリだらけ、ゴキブリ館と呼ばれているそうだ。

人生全てゴキブリとの格闘。

結婚とは無縁、何のために生まれたのか、南端の小島で墓場行き。

人生とは何か、と考えさせられます。

あだ名は体を表すのかな。

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